2026 年 9 月 3 日、PayPay は中国本土・中国香港・中国マカオで発行された銀聯カードのアプリ「UnionPay App」を、PayPay 加盟店で使えるようにしたと発表しました。これで 17 の市場・地域の 36 の決済サービスが PayPay 加盟店で使え、訪日客の約 8 割の出身地域をカバーするといいます※1。
自販機や無人店を運営していて、PayPay を受けている方なら、こう思ったかもしれません。「うちの機械も PayPay 対応だから、銀聯の客も買えるようになったのか」。
答えは、そのままでは「いいえ」です。PayPay が加盟店向けに出している海外ウォレット受入れの案内には、対象の加盟店についてこう書かれています。「※マネー限定加盟店、DynamicQR(自動販売機など)をご利用の加盟店様は除きます。」※2。自販機向けの区分である「DynamicQR」は、PayPay 自身の枠組みで、はっきり対象外に置かれている。そして、この区分に当たらない自販機でも、使えるかどうかは別の条件で決まります。
この「レジでは使えるのに、自販機では自動的には使えない」という現象は、銀聯に限りません。「○○ Pay が使える」というニュースの主語は、たいていレジです。無人機で何が使えるかは、別のところで決まります。本稿はその「別のところ」、つまりコード決済の方式と、無人機運営者が確認すべき項目を整理します。
コード決済には、二つの方式があります。キャッシュレス推進協議会の統一技術仕様ガイドラインでは、店側が用意した QR コードを利用者が自分のスマートフォンで読み取る方式を「店舗提示型(MPM)」、利用者がスマートフォンにコードを表示し、店側の端末に読み取らせる方式を「利用者提示型(CPM)」と定義しています※3※4。PayPay の用語では前者が「ユーザースキャン」、後者が「ストアスキャン」です※5。
言葉は違っても、分かれ目は一つ。コードを出すのはどちらで、読むのはどちらか。ここが逆になると、決済を成立させる主体も、使えるブランドの決まり方も変わります。
表 1 二つの方式の違い
表の最後の行に、本稿の分かれ目があります。ユーザースキャンでは、ウォレット事業者が「うちのアプリで PayPay の QR を読めるようにした」と決めれば、店側の手続きなしで使えるブランドが増えることがあります。ストアスキャンでは逆で、店側の端末がそのコードを読み、決済代行がそのブランドを処理できる状態になって、初めて使えます。「○○ Pay が使える」というニュースが、多くの場合ユーザースキャンの話として書かれるのは、この非対称性のためです。
では自販機はどちらか。実は、三つの形が併存しています。
表 2 無人機のコード決済 3 つの型と、「使えるブランド」の決まり方
端末読取型は、イオンが 2020 年に約 5,000 台の自販機で採用した形で、端末に QR コードの読取機能を追加する形で対応しました※7。画面表示型は、PayPay が「DynamicQR(自動販売機など)」と呼ぶ区分で、自販機側に QR を表示する形。ステッカー型は、コカ・コーラ ボトラーズジャパンの「QR de 決済」のように、自販機に貼られた QR を利用者が読む形で、こちらは 21 ブランドと幅広い一方、対象は貼られたブランドに限られます※8。
三つの形で「使えるブランドの決まり方」は全部違います。だから、無人機の運営者が最初に知っておくべきなのは、ニュースの中身ではなく、自分の機械がどの型かです。同じ「PayPay 対応自販機」でも、画面表示型なら PayPay の海外ウォレット受入れの対象外。端末読取型やステッカー型なら規則上は対象になりうるが、実際に銀聯が通るかはそれぞれの対応表次第。飲料メーカーが「対応しているマネーブランドは自動販売機ごとに異なります」と案内しているのは、この構造をそのまま映した案内です※9。
方式の違いが分かると、この夏のニュースの読み方が変わります。
銀聯 QR(9 月 3 日)。PayPay の海外ウォレット受入れは、レジ向けにはユーザースキャン・ストアスキャン両方に対応しており、連携先の一覧は加盟店向けヘルプに掲載されています※2※6。ただし、自販機向けの DynamicQR 加盟店は除外。つまり、画面表示型の自販機は規則の段階で外れ、端末読取型とステッカー型は規則上は外れていないものの、実際に銀聯が通るかはそれぞれの対応表で決まる、という二段階の構造です。
同じ PayPay でも、Alipay+ は別。PayPay 経由で Alipay+ 系のウォレットを受ける場合、対象はユーザースキャン方式のみで、ストアスキャンや DynamicQR は対象外、しかも別途申込みが要ります※10。「PayPay で使える」の中身が、ブランドごとに違う。ニュースの見出しだけで自機の対応を判断できない理由が、ここにあります。
楽天ペイ「オフラインコード払い」(8 月 4 日)。利用者のスマートフォンが圏外でもコードを表示して支払える機能で、方式は「コード提示」のみ、対象は楽天ペイが使える一部の店舗、上限は 1 回 5 万円・24 時間に 5 回・14 日間に 10 回です※11。ここで見落とされがちなのは、「オフライン」なのは利用者側だという点。同種の機能を先行して出している PayPay は、加盟店向けに「ストア側はインターネットと接続している(オンライン)状態である必要があります」と明記し、店頭の QR を利用者が読む方式では使えないとしています※12。d 払いも、加盟店の決済端末がネットワークに接続している必要があるとの注記付きです※13。楽天ペイ自身も「お店側の決済端末の都合により、ご利用いただけない場合もあります」と案内しています※11。利用者提示型のコードには有効時間があり※4、店側の端末が通信できなければ決済は成立しない。無人機の通信が落ちれば、利用者のアプリがオフライン対応でも止まります。
teppay(2026 年秋)。Suica・PASMO のコード決済サービスで、交通系 IC の 2 万円という上限を超えて 30 万円までチャージでき、開始当初から JCB の Smart Code 加盟店約 160 万か所で使えると報じられています※14。この 160 万か所の受理方式は、利用者がコードを表示し店側の端末が読むストアスキャンです※15。つまり teppay は、利用者にとっては Suica でも、店側の端末にとっては QR 線の話。自販機で受けるなら、端末読取型で、かつ決済代行が Smart Code を処理できることが条件になります。
ここまでで、無人機のキャッシュレスには性質の違う二本の線があることが見えてきます。
一本は交通系 IC のタッチ。東京都の自販機利用者調査(端末事業者による調査、n=600)では、自販機で最もよく使う決済手段として交通系 IC が 35.0% で最多、QR コード決済は 18.8% でした※16。利用者は多い。ただし端末側は、機種×ブランド×運用形態の組み合わせごとに電子マネー検定を取る必要があり、Suica はカード内総額 2 万円が上限です※17。
もう一本は QR。利用者は交通系 IC より少ないものの、上限は高く、ブランドの追加は端末の再検定ではなく、決済代行側の対応表で決まります。電子マネー検定の対象は交通系 IC・WAON・iD・QUICPay・楽天 Edy・nanaco といった FeliCa 系のブランドで、QR はその枠の外にあるからです※18。検定の性質については別稿で整理しています。
二本の線は、関門の位置が逆です。交通系 IC は端末側の検定という関門を通り、QR は決済代行側の対応表という関門を通る。だから「どちらを先に入れるか」は、商品の単価と客層で決まります。飲料のように 2 万円の上限が問題にならず、利用者の多さが物を言う機械なら、交通系 IC が主軸。冷凍食品や物販のように単価が高い機械なら、上限に縛られない QR やクレジットが向く。そして teppay のように、利用者にとっては交通系でも店側では QR 線を通るサービスが出てくると、組み合わせ方はもう一段複雑になります。
以上を、運営者が端末や決済代行を選ぶ前の確認項目に落とし込みます。
自機の方式。端末読取型か、画面表示型か、ステッカー型か。これが分からないと、どのニュースが自分に関係あるか判断できない。
その方式で使えるブランドの一覧。端末読取型なら端末+決済代行の対応表、画面表示型なら決済事業者側の枠。「PayPay 対応」の一語では足りず、海外ウォレットまで含めた一覧で確認する。
ブランドが増えるときの手順。ユーザースキャンなら店は何もしなくてよい場合が多い。ストアスキャンなら、端末側の対応と決済代行側の加盟店追加申請の両方が要る。
オフラインの主語。利用者側のオフライン機能は、店側端末のオンラインを前提にしている。無人機の通信バックアップは別に考える。
上限額を決めている側。交通系 IC はカード残高、QR は各ウォレットのルール。端末や決済代行が決めているわけではないので、商品単価との相性はブランドごとに見る。
QR ステッカーのすり替えという、ユーザースキャン特有のリスクについては別稿で扱いました。本稿の 3 つの型でいえばステッカー型の話で、端末読取型には構造上起きません。
FinGo の自販機・無人機向け端末である IM-28 と Trio-iQ は、いずれも端末が利用者のコードを読むストアスキャン方式です。QR ブランドは決済代行経由の対応表で開通し、新しいブランドを加えるときは端末側の対応と決済代行側の加盟店追加申請を二段で進めます。上限額は各ウォレットのルールに従います。
裏返せば、私たちの端末でも、レジ向けの「○○ Pay 対応」ニュースが出た翌日に自動で使えるようになるわけではありません。無人機の運営を考えるとき、最初に確かめるべきは「今この端末と決済代行の組み合わせで、どのブランドが通るか」の一覧です。その一覧を最初に出せる相手と話すことが、後から「対応済みのはずが使えない」を防ぐ近道だと考えています。自販機のキャッシュレスが裏側でどう通信しているかは、こちらの記事で扱っています。
※1 PayPay「新たに「UnionPay App」(銀聯QR)がPayPay加盟店で利用可能に!」(2026 年 9 月 3 日) https://about.paypay.ne.jp/pr/20260903/01/
※2 PayPay 加盟店向けお知らせ「【重要】HIVEX(ハイベックス)サービスにおけるストアスキャン方式の対応開始、および決済サービス追加のお知らせ」(2024 年 2 月 29 日・対象加盟店の除外規定) https://paypay.ne.jp/notice-merchant/20240229/n-01/
※3 キャッシュレス推進協議会「コード決済に関する統一技術仕様ガイドライン【店舗提示型】」Ver.3.0(2022 年 11 月・用語集) https://www.soumu.go.jp/main_content/000844779.pdf
※4 キャッシュレス推進協議会「コード決済に関する統一技術仕様ガイドライン【利用者提示型】」Ver.1.2(2019 年 10 月・定義とワンタイムトークン有効時間) https://paymentsjapan.or.jp/wp-content/uploads/2022/02/CPM_Guideline_1.2.pdf
※5 PayPay 加盟店ヘルプ「決済の流れ」(ユーザースキャン/ストアスキャンの定義) https://paypay.ne.jp/help-merchant/b0047/
※6 PayPay 加盟店ヘルプ「HIVEX とは」(連携サービス・対象外加盟店) https://paypay.ne.jp/help-merchant/b0761/
※7 Impress Watch「イオンの自販機がPayPay、d払いなど5つのコード決済に対応」(2020 年 7 月 1 日) https://www.watch.impress.co.jp/docs/news/1262723.html
※8 コカ・コーラ ボトラーズジャパン「QR de 決済」(対応ブランド・設置地域) https://www.ccbji.co.jp/business/installation/qr-de-kessai/
※9 ダイドードリンコ 自販機コンサル コラム「自動販売機での電子マネーの使い方は?」(対応ブランドは自動販売機ごとに異なる旨) https://www.dydo.co.jp/jihankiconsul/column/detail/column_102.html
※10 PayPay 加盟店ヘルプ「Alipay+ とは」(対象方式・対象外・申込み) https://paypay.ne.jp/help-merchant/b0076/
※11 楽天ペイ「オフラインコード払い」(方式・対象店舗・利用上限・店側端末に関する注記)/楽天ペイメント リリース(2026 年 8 月 4 日) https://pay.rakuten.co.jp/topics/offline-payment/ https://payment.rakuten.co.jp/news/2026080400
※12 PayPay 加盟店様向けヘルプ「オフライン支払いモードとは」(ストア側のオンライン要件・ユーザースキャン決済は不可) https://paypay.ne.jp/help-merchant/b0813/
※13 NTT ドコモ「「d 払い」にネットワークに接続していなくても支払いが可能な機能を追加」(2025 年 1 月 27 日・注 2 加盟店端末のネットワーク接続要件) https://www.docomo.ne.jp/binary/pdf/info/news_release/topics_250127_00.pdf
※14 ペイメントナビ「SuicaとPASMOがコード決済サービス「teppay」提供、最後発でも勝負できる理由とは?」(2025 年 11 月 27 日・チャージ上限 30 万円・Smart Code 約 160 万か所) https://paymentnavi.com/paymentnews/168001.html
※15 JCB「Smart Code ご利用ガイド」(利用者がコードを表示し店舗端末が読み取る方式) https://www.smart-code.jp/guide/
※16 エム・ピー・ソリューション「東京都 飲料自販機利用者の決済状況調査 2026」(PR TIMES・n=600・2026 年 3 月 27 日〜4 月 4 日) https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000000059.000030773.html
※17 JR 東日本「Suica のチャージ上限」(カード内総額 20,000 円) https://jreastfaq.jreast.co.jp/faq/show/1068?category_id=28&site_domain=default
※18 FinGo「ブランド検定」(電子マネーブランド検定の対象ブランド) https://www.fingo.co.jp/certification