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#047「まだ使える」と「もう替え時」の境目 — 磁気フォールバック禁止で変わる決済端末の更新判断
その端末、今日も問題なくカードを読んでいます。エラーも出ない、決済も通る、客からの苦情もない。「まだ使える」——現場の感覚としては、まったく正しい。
ただ、2026 年 4 月に業界の側で一本の線が引かれました。クレジットカード・セキュリティガイドライン【6.1 版】により、これ以降に新規開発またはシステム更改される決済端末では、磁気フォールバック取引の実装が禁止されたのです※1。
この線は、いま使っている端末を今日から違反にするものではありません。そうではなく、一度越えると引き返せない線です。次に端末を替えるとき、「磁気に頼れる端末」という選択肢は並ばなくなっていきます。だとすれば考えるべきは「替えるかどうか」ではなく、「いつ、何を確認して替えるか」に変わります。
磁気フォールバックとは何か — IC 時代に残された「抜け道」
磁気フォールバックとは、IC チップの読み取りに失敗したとき、磁気ストライプの読み取りに切り替えて取引を通す処理のことです。IC 化の過渡期には、チップ不良や読み取りエラーで決済が止まらないための救済策として機能してきました。
問題は、この救済策が不正の入口としても機能してしまうことです。
IC チップは複製が極めて困難ですが、磁気ストライプはカード偽造の古典的な標的です。日本のクレジットカード不正利用被害は 2025 年に 510.5 億円。全体では減少に転じる中、その 9 割超は EC などでの番号盗用で、店頭の偽造被害は IC 化の進展で長く抑え込まれてきました※2。
ところが同じ 2025 年、偽造カードによる被害だけは前年比 22.0% 増と逆行しています※2。しかも単年の話ではありません。IC 化が偽造被害を 2021 年に 1.5 億円まで抑え込んだあと、被害額は 4 年連続で増加し、2025 年は 7.2 億円——底を打って約 5 倍に戻ってきたのが実態です※3。
金額は 7.2 億円と全体から見れば小さい。しかし「IC で防がれるはずの手口が、なぜ今増えるのか」——答えの一つが、意図的に IC を読ませず磁気に落とすフォールバックの悪用です。IC という正面玄関の守りが固くなるほど、残された勝手口に攻撃が集中する。ガイドラインがこの勝手口を閉めにきた、というのが 2026 年 4 月の線の意味です※1。
あなたの店の端末は、線のどちら側にいるか
確認したいのは 1 点だけ。いま使っている端末は、磁気ストライプの読み取りに依存する場面があるかです。
導入から年数が経った端末で、こんな運用に心当たりはないでしょうか。
IC の読み取りエラーが出ると、店員がカードをスライドして通し直している
「チップが読めないときはこうする」というマニュアルが磁気前提になっている
非接触(タッチ決済)に対応しておらず、挿すか擦るかの二択
こうした場面が日常にあるなら、その端末は線の手前側——磁気時代の設計です。繰り返しますが、今日それが違反になるわけではありません。ただ、次の 3 つの流れは全部、同じ方向を向いています。
第一に、これから開発される端末にはフォールバックが載らない※1。更新の選択肢から、磁気頼みの運用は消えていきます。第二に、タッチ決済(非接触 IC)が店頭の標準になりつつある。読み取りエラー時の代替手段は、磁気ではなく非接触が担う時代です。第三に、偽造被害は前年比 22.0% 増と逆行しており※2、磁気依存の残る環境ほど狙われやすくなっていく。古い設計の端末を長く使うことは、その側に立ち続けることを意味します。
「まだ使える」は事実。それでも、リスクは年々増え、選択肢は狭まっていく側にいる——これが線の手前にいるということです。
更新のタイミングで確認すべきこと
では、次に端末を替えるとき、何を見ればいいのか。価格や決済手数料の比較に入る前に、セキュリティ面で確認しておきたいのは次の点です。
磁気フォールバックの扱い:フォールバック実装のない端末か(2026 年 4 月以降の新規開発端末は禁止が前提※1)
そもそも磁気ストライプ読取部があるか:磁気を物理的に搭載しない端末なら、フォールバックは構造上存在しない
非接触 IC(タッチ決済)対応:読み取りエラー時の受け皿と、客の支払い体験の両方を担う
IC 取引時の本人確認方式:PIN 入力への対応状況
保守・アップデート体制:ガイドラインは毎年改訂される。端末側の追従が誰の責任で行われるか
このうち見落とされやすいのが 2 点目です。「フォールバックを無効化した端末」と「磁気読取部そのものがない端末」は、似ているようで違います。前者は設定の問題、後者は構造の問題。攻撃の入口を設定で塞ぐか、最初から入口を作らないか——セキュリティの発想としては後者の方が一段強い。
FinGo の端末は、有人店舗向けの PT-10、無人機向けの IM-28 ともに、磁気ストライプを搭載していません。磁気に落ちる取引が構造上存在しない設計です。
無人機側は、自販機の制御方式によってルートが分かれます。国内メーカーの自販機で広く使われる JVMA 方式(日本の業界標準規格)の機体には IM-28。海外製自販機などで採用される国際標準の MDB 方式の機体には Trio-iQ。どちらも、いまお使いの自販機に決済端末を後付けする方式です——機体ごと入れ替える必要はありません(2 つの制御方式の違いと見分け方は別記事で詳しく解説しています)。有人・無人いずれの現場も、端末更新の相談は同じ窓口で受け付けています。
店頭の決済まわりの安全は、端末の設計だけで完結するものではありません。QR コードの掲示方法のような運用面の盲点については、前回の記事で整理しています。あわせてどうぞ。
よくある質問
Q1. 今の端末はフォールバック対応ですが、すぐ替えるべきですか。
ガイドラインが禁止しているのは 2026 年 4 月以降の新規開発・システム更改端末への実装であり、既存端末が直ちに違反になるわけではありません※1。ただし更新の選択肢は今後「フォールバックなし」に一本化されていくため、次の更新時期を前倒しで検討する価値はあります。
Q2. 磁気ストライプのカードを出すお客様はどうなりますか。
国内発行カードの IC 化は広く進んでおり、IC チップ付きカードであれば IC または非接触で決済できます。読み取りエラー時も、磁気ではなく非接触やカード再読み取りで対応するのが新しい端末の前提です。
Q3. 自販機などの無人機にも同じ話が当てはまりますか。
当てはまります。無人機は店員の目がない分、偽造や不正への耐性はむしろ有人店舗より重い。FinGo の無人機向け端末も磁気非搭載・非接触中心の設計で、既存機への後付けから検討できます。
まとめ — 「替え時」は、エラーが増えてからでは遅い
決済端末の更新は、壊れてから考えるものと思われがちです。しかし 2026 年 4 月の線が引かれた今、更新は「同じものへの買い替え」ではなく「磁気に頼らない設計への移行」を意味します。
今日この後にやることは一つだけ。レジ横の端末を見て、磁気スライドで取引を通した記憶が最近あるかを思い返してみてください。心当たりがあれば、それが検討を始める合図です。
端末の更新を含めた決済まわりの見直しは、FinGo でも有人店舗・無人機の両面で相談を受け付けています。
出典
※1 クレジットカード・セキュリティガイドライン【6.1 版】改訂ポイント(クレジット取引セキュリティ対策協議会・2026 年 3 月)「2026 年 4 月以降の新規決済端末の開発またはシステム更改においては、磁気カード取引に遷移し取引を行う処理(磁気フォールバック)を禁止」 https://www.j-credit.or.jp/security/pdf/Creditcardsecurityguidelines_6.1_revisionpoint.pdf
※2 クレジットカード不正利用被害の集計結果(日本クレジット協会・2026 年 3 月 6 日発表):2025 年被害額 510.5 億円(前年比 8.0% 減)、うち偽造被害 7.2 億円(前年比 22.0% 増)、番号盗用 475.4 億円 https://www.j-credit.or.jp/download/news20260306_a1.pdf
※3 偽造被害額の年別推移(※1 と同じ日本クレジット協会 2026-03-06 発表資料内の年別推移表より:2021 年 1.5 億円 / 2022 年 1.7 億円 / 2023 年 3.1 億円 / 2024 年 5.9 億円 / 2025 年 7.2 億円) https://www.j-credit.or.jp/download/news20260306_a1.pdf