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#061手数料 0.98% の衝撃 — ステーブルコイン決済は、店が「動く話」なのか「待つ話」なのか

#061手数料 0.98% の衝撃 — ステーブルコイン決済は、店が「動く話」なのか「待つ話」なのか

2026 年 8 月、ローソンの店頭でステーブルコインによる支払いの実証実験が行われました。レジは普段の POS のまま。端末の交換もなく、レジ側の操作も普段のバーコード決済と変わらなかったといいます。8 月 17 日の第 2 弾では MetaMask という汎用ウォレットを使い、円建て・米ドル建て合わせて 3 種類のステーブルコインでの支払いが確認されました※1。

「ステーブルコインで買い物をする」という話は、これまで概念の紹介にとどまることが多いものでした。それがこの夏、コンビニのレジという日常の場面へ。しかも、店舗向けの商用サービスは「手数料 0.98%」という具体的な数字を掲げました※2。カード決済の手数料が一般に 2〜3% と言われる中で、単純に比べれば半分以下、という計算になるでしょう。

では、店はいま動くべきなのか、それとも待つべきなのか。ステーブルコインそのものの仕組みは当アカウントの解説記事(#040)に譲り、本記事は決済端末メーカーの立場から、店側の判断材料に絞って整理します。

実証実験が行われたローソンゲートシティ大崎アトリウム店
出所:https://epayments.jp/archives/55531

日本のステーブルコインは、いま何合目か

ステーブルコインとは、円やドルといった法定通貨に価値が連動するデジタル通貨のことです。日本での歩みを振り返ると、大きく三つの段階を踏んできたことが分かります。

最初の段階は、制度づくりでした。2023 年 6 月施行の改正資金決済法で、ステーブルコインは「電子決済手段」として法的に位置づけられ、発行できるのは銀行・信託会社・資金移動業者といった限られた主体になりました※3。2026 年 6 月にはさらに改正法が施行され、裏付け資産の運用ルールや仲介業の新設など、実務に踏み込んだ整備が進んでいます※4。

次の段階は、発行。円建てステーブルコイン「JPYC」は 2025 年秋に発行が始まり、2026 年 5 月末時点で累計発行額が 30 億円を超えました※5。米ドル建ての USDC も、2025 年 3 月から国内の登録業者を通じた取り扱いが始まっています※6。発行は、すでに現実。

そして三つ目の段階が、この夏に始まった「受け入れ環境」の整備。発行されたコインを実際に使える場所、つまり店舗側の対応です。冒頭のローソンの実証も、手数料 0.98% の商用サービスも、すべてこの段階の出来事にあたります。

ここで押さえておきたいのは、制度と発行は店舗にほぼ関係のない段階でしたが、受け入れ環境は店舗が当事者になる段階だ、という点です。ステーブルコインのニュースが「自分の店に関係あるかもしれない話」に変わったのは、まさにこの夏からと言えます。

図 1 日本のステーブルコイン:制度 → 発行 → 受け入れ環境という三段階の歩み

「0.98%」の意味を、冷静に測る

ネットスターズが 2026 年 7 月 13 日に始めた店舗向けサービス「Stablecoin Pay」は、加盟店手数料 0.98%(非課税)を明示しました。対応するのは円建ての JPYC と米ドル建ての USDC・USDT。米ドル建てで支払われても、店側の金額表示・売上管理・精算は日本円ベースで完結する設計だといいます※2。

手数料だけを見れば、確かに衝撃的な水準でしょう。仮に年間 1,000 万円のキャッシュレス売上がある店なら、手数料率が 2% 台から 1% を切る水準に変われば、差額は年間 10 万〜20 万円規模になり得ます。

ただし、この数字だけで走り出すのは早いと考えています。決済手段は「店が対応すること」と「客が使うこと」の両輪がそろって、初めて売上に貢献するもの。ステーブルコインを日常の買い物に使える状態の消費者は、まだ限られています。ウォレットの入手や円からの交換という入口の手間が残っており、業界のイベントでも「そもそも使える場所が少ない」ことが普及の根本的な課題として語られました※7。

つまり 0.98% は、「いま切り替えれば得」を意味する数字ではありません。「もし普及したら、決済コストの構造が従来と大きく違う」ことを示す数字です。この読み方を間違えなければ、将来を見据えた判断材料になるでしょう。

受け入れ環境を整えているのは、誰か

この夏の動きでもう一つ注目したいのは、受け入れ環境の整備が決済ネットワークの側で同時に進んでいることです。

先ほどの Stablecoin Pay は、年間 2.1 兆円の決済取扱高を持つマルチキャッシュレス決済ゲートウェイ「StarPay」を運営するネットスターズの新サービスとして始まりました。特徴は、加盟店が普段使っている端末をそのまま活用でき、追加の機器がいらないこと。一度の申し込みで、今後追加される通貨・ブロックチェーン・ウォレットにも順次対応していく設計です※2。8 月 17 日のローソンの実証も、既存の POS レジとこの仕組みをつないで行われました※1。

8 月 10 日には、別の大手からも動きがありました。デジタルガレージがステーブルコイン決済基盤「DG Stablecoin Payment Service」の商用展開を発表し、JCB の加盟店網やグループの決済会社(130 万拠点超)へ先行提供する予定とのこと。こちらも、決済事業者の既存システムと API でつなぐ方式で、加盟店側に特別な設備投資を求めません※8。

端末の側にも準備の動きがあります。9 月に発売される新型のマルチ決済端末は、クレジットカード・QR コード決済・電子マネーに加え、ステーブルコイン決済への対応が「予定」として明記されました※9。

これらに共通するのは、「店に新しい設備を買わせない」という設計思想です。ネットワーク側のシステムが対応し、店は既存の端末とオペレーションのまま、新しい決済手段を受けられるようになる。思い出していただきたいのは、QR コード決済が広がったときも同じ経路だったことです。店が個別に何かを開発したわけではなく、ゲートウェイと端末のソフトウェアが対応し、ある日から「使える」ようになったのが実際のところでした。

で、店は動くべきか — 答えは「急がなくていい。ただし」

結論から言えば、いま店側が契約や設備を動かす必要はないと考えています。

理由は、上で見た経路そのものです。ステーブルコイン対応は端末の買い替え問題としてではなく、決済ネットワーク側のシステム対応として店に届く公算が大きい。同じ経路をたどるなら、慌てて専用の契約や機器を用意する意味は薄いでしょう。「対応します」という案内が、いずれ利用中の決済サービスから届くはずです。それを待てばよい種類の話だと思います。

ただし、一つだけ今日からできることがあります。端末や決済契約をこれから選ぶ・見直す場面では、「拡張性」を評価軸に置くことです。

1 台で複数の決済手段を扱い、ネットワーク側の機能追加をソフトウェア更新で受けられるタイプの端末・契約であれば、新しい決済手段の波が来たときにそのまま乗れる可能性が高くなります。逆に、単一の決済手段に固定された仕組みは、手段が増えるたびに契約と機器の追加が必要になるでしょう。ステーブルコインが本命になるかどうかにかかわらず、この評価軸は今日の端末選びにそのまま使えます。

あとは、待つあいだに見ておきたいシグナルが三つあります。

  • 京都で先行している自販機でのステーブルコイン決済実証(9 月末まで予定)の結果。実際にどれだけ使われたかが、数字で見えてくるはずです

  • 大手決済代行・カード会社からの正式対応の発表が、この夏の流れに続くかどうか

  • 自分の店が使っている決済サービスが、対応を正式に告知するかどうか

三つ目が点灯したときが、具体的な検討を始めるタイミングです。それまでは、ニュースを「関係のある話」として眺めておけば十分だと考えています。

端末メーカーとして

FinGo は決済端末のメーカーとして、店舗の決済環境づくりに関わってきました。新しい決済手段が決済ネットワーク側から届く順序である以上、端末に求められるのは、それを受け止められる設計。だからこそ当社は、1 台で複数の決済手段を集約し、後からの機能追加を受けられる拡張性を、端末設計の考え方としてきました。

ステーブルコインが店頭の主役になるかどうかは、まだ分かりません。ただ、「新しい手段が来ても、端末と契約を作り直さずに受けられる状態にしておく」ことは、いま準備できます。決済端末の選定や更新をご検討の際は、お気軽にご相談ください。

自販機・無人機の側から見たステーブルコインについては、別記事で解説しています。

決済手段を複線化しておく考え方は、決済障害への備えを扱った記事とも地続きです。

出典

※1 電子決済マガジン「【見学してきました】ローソンがステーブルコインでの店頭決済を実験」(2026 年 8 月) https://epayments.jp/archives/55531

※2 ネットスターズ「日本初、ステーブルコイン決済に対応する『Stablecoin Pay』本格始動」(2026 年 7 月 13 日) https://www.netstars.co.jp/news/9450/

※3 牛島総合法律事務所「ステーブルコイン規制の概要」(2023 年改正資金決済法の施行と電子決済手段の定義) https://www.ushijima-law.gr.jp/client-alert_seminar/client-alert/stablecoins/

※4 Westlaw Japan 法令ガイド「【2026 年施行】資金決済法改正の概要と実務上のポイント」 https://www.thomsonreuters.co.jp/ja/westlaw-japan/law_guide/2026/0630/

※5 JPYC 株式会社「累計発行額 30 億円突破のお知らせ」(2026 年 6 月) https://corporate.jpyc.co.jp/news/posts/jpyc-30billion-issued

※6 SBI ホールディングス「【国内初】ステーブルコイン取扱いにかかる『電子決済手段等取引業者』登録完了のお知らせ」(2025 年 3 月 4 日) https://www.sbigroup.co.jp/news/2025/0304_15290.html

※7 ネットスターズ「【WebX 2026】複数のステーブルコインを一括導入できる『Stablecoin Pay』登場—決済の未来と普及に向けた課題を議論」 https://www.netstars.co.jp/blog/9523/

※8 デジタルガレージ「次世代決済インフラを支えるステーブルコイン決済基盤『DG Stablecoin Payment Service』の商用展開を始動」(2026 年 8 月 10 日) https://www.garage.co.jp/pr/release/20260810/

※9 ネットスターズ「StarPay 対応の新決済端末『SUNMI P3H』を 9 月より販売開始」(2026 年 8 月) https://www.netstars.co.jp/news/9552/

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